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続「とりかへばや物語」時々「源氏」その5

今上帝の語れる

 中宮は、行ってしまったのだね、大納言。
「……急な病を得て、亡くなってしまわれました。帝にお別れも言えないのを残念がっておいででした。」
 繕わなくても良い。あなたを責めはしないから。友雅と、行ってしまったのだろう?
「畏れながら……」
 やはり、そうなってしまったか……。
 入内の最初から、心の奥底に友雅を残してきたなと感じていた。表面は忘れたように振る舞っていたが、こちらへ召すときなど、友雅がいないことを必ず確かめていた。私は友雅に代われなかったのだね。中宮の心はいつも、友雅に向いていた……。
「妹は、主上に感謝しておりました。人の世の栄華を味わわせていただいた、と。大事にされて、ただ一人大切にしていただいて、幸せでした、と伝えてほしいと。」
 そうか……。 どこへ行ったのだろう?
「どこへ行くとも……。死出の旅路に送り出すようでした。頼久が供について参りました。」
 ああ、あれが一緒なら、安心だ。中宮に対する忠義ぶりは、すばらしかった。
 大納言の言うとおり、中宮は亡くなったことにしよう。友雅も私によく仕えてくれた。大事な人を私に奪われたと知りながら。そう、私が友雅から内侍を奪って中宮にすえてしまったのだ。私が裂いた仲なのだから、二人が添おうとするのをとめることはできないだろう。私が、あきらめることにしよう。
 さりげなく保護を与えるから、行き先がわかったら教えなさい。



あかね姫の語れる

 ああ、ようやく、ただのあかねに戻れたわ。
 今、友雅さんと頼久と一緒に、伊予の、誰もいない小島に住んでるの。
 友成の若君も一緒についてきたわ。「母上」って、呼んでくれた。わたし、あの子を捨てたのに。
「二の宮様のお供で御所にうかがったときから気づいていました。母上。ずっと、お呼びしたかった。」
……そうだったのね。知っていたのね。私の立場を考えて。我慢させてしまったわね。でも、これからはずっと一緒。今までの埋め合わせをするわ。
 何をして暮らしているかって? か・い・ぞ・く。
 頼久がどこからか、船を手に入れてきたの。最初、殿方3人と頼久の部下とで、海のお魚とか捕りに行ってたのだけれど、 ある日、海賊に襲われて、勝ってしまったの!
 それ以来、近場の水軍から頼られてしまって。水軍といっても、つまり海賊だから、今では友雅さんが首領で、頼久が参謀役で、友成殿が若頭領で……。似合ってるわよ、すごく。
 今度ね、友成殿に嫁の君が来るの。水軍の頭領の娘。かわいくて、きれいな子よ。あの子は、私たちのようにすれ違いの恋にならぬよう、ここまで来るのに、長い道のり歩まぬよう、幸せになってほしいわ。
 ねえ、友雅さん。私たち、もう、誰にも隠れなくてもいいのね。私たちのこと、誰にも隠さなくてもいいのね。
 伊予の海に夕日が沈んでいくわ。きれいな夕焼け。幸せよ。あなたと寄り添って見られるなんて。ずっと、ずっと一緒ね……





 100年後。「翡翠」と名乗る友雅さんそっくりのお方が海賊業を続けていた、というのは、また別のお話……。                                               (完)



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